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鹿児島地方裁判所 昭和28年(ワ)373号 判決

原告

戸高清美

被告

金沢金網株式会社

主文

被告は原告に対し金三万千百円を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は三分しその二を原告の、その一を被告の負担とする。

事実

(省略)

理由

被告会社が土建関係の機械類を販売する会社で、鹿児島市西千石町に支店を有していること、及び、原告主張日時に、原告がその主張のミキサーにより負傷したことは、当事者間争いのないところである。

原告の法定代理人戸高トモエの供述により成立を認められる甲第一号証、成立に争いなき甲第三号証、証人石神勇熊、釜付和子、貴島国雄(第二回)、四元時雄、林利男、角正男の各証言、原告の法定代理人両名の供述、検証の結果、及前記争いない事実に弁論の全趣旨を綜合すれば、被告会社は、土建関係の機械類を販売している会社であつて、鹿児島市西千石町に支店を有していること(このことは当事者間争いのない)、右支店に於て、その支店員が商品見本として本件ミキサーを、本件事故発生の数ケ月前から支店前の同町九十八番地先道路上に、それを置くのに当局の許可を受けることなく置いていたこと、右ミキサーは、手動式で傾胴トツクリ型四切のものであつて、六歳位の子供でも把手を廻し得て、把手を廻せば歯車がかみ合つて、そこに手を触れておれば指は喰い込まれ得ること、ミキサーは安全装置として歯止めのないのが普通であるが、本件ミキサーも安全装置として歯止め等の装置は施してなかつたこと、本件ミキサーは、前記の如く永い間道路上に置いてあつた関係上、日頃子供等が乗つたりして遊んでいる場合がよくあつたこと、昭和二十八年七月十七日、原告(当時三年九月)がその兄(六歳)と共に本件ミキサーの処で遊んでいる中、右兄が右ミキサーの把手を廻した瞬間、原告がその歯車に右手掌を捲込まれて、そのため、右手掌に縫合手術七針(挫創は皮下に及ぶ)治療日数二十四日を要する負傷をして、治療後も尚、右手掌小指側に瘢痕形成あるが、機能障碍はないこと、を各認めることができる。

右認定を左右する証拠はない。

以上の事実によれば、被告会社の支店員が、会社の事業である土建関係の機械であるミキサー販売の為めに商品見本として、置いていた本件ミキサーによつて原告に負傷させたものであるから、このことは、被告会社は、民法第七一五条第一項に謂う、「或事業の為めに他人を使用する者は、被用者が其の事業の執行に付き第三者に加へたる損害」、と謂うことを得られ、又、取扱いの如何によつては人の身体に危険を生ずる虞れのある本件ミキサーを、安全装置も施こさず、漫然数ケ月間も道路上に放置しておいた為めに、原告が負傷したことは、被告会社の支店員に重大なる過失があつたものと謂わなければならない、たとえ、ミキサーは安全装置なく放置されていることが通常の状態であつて、本件の場合もその例の通りであつたとしても、このことは、責任量を斟酌する事由にはなり得ても、過失を無にする事由とはならない。証人角正男の証言によれば、被告会社は支店員に対し、商品を雨ざらし等にすることはかねがね厳重な注意をしていたことは認めることができるが、これのみにては、民法第七一五条第一項但書の使用者が其の事業の監督に付き相当の注意を為したるとき、に該当しないものと解するのが相当である。

果して然らば、被告会社は原告に対し、民法第七一五条第一項により、原告の本件負傷に対し損害を賠償する責任があるものと謂わなければならない。

而して、その賠償額を考えてみるに、成立に争いなき甲第二号証によれば、昭和二十八年七月十七日から同年八月十日迄に治療代千百円を要したこと明らかである。原告は、整形手術のため金三万円を要すると主張するが、之を確認せしめる証拠はないから、幾許を要するかは認定し得ず、原告が精神的苦痛を受けたことは前記の如く負傷した事実から容易に推認し得られるから、慰藉料としては、前記認定の諸事実や、事故直後支店長が商用出張で不在のため支店員が菓子を持つて見舞に行きお詫を述べ、電報で支店長に報告して、支店長が帰店するや直ちに治療費の一部として金二千円か三千円を贈つたこと、その後、支店長と原告の父母間に於て示談の話が進み、金二万円と云うところ迄話が接近したが、即金かどうかで話が不調になつたこと、の証人林和男の証言により明らかな事実、その他諸般の事情を斟酌してみるに、金三万円が相当と思料する。

されば、以上認容の限度に於ては、原告の請求は正当であるが、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担に付民事訴訟法第九十二条により、原告に三分の二、被告にその残を負担せしめることとして主文の通り判決する。

(裁判官 小出吉次)

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